UC San Diego Health が AWS を利用して人工知能によるイメージングモデルを 10 日間で実装
2021 年
新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) が 2020 年春に米国で広がったとき、UC San Diego Health の研究者たちは、検出が困難な症例の肺炎を識別するために、機械学習を用いた画像認識モデルを既に開発していました。短期間のうちに、肺炎は新型コロナウイルス (COVID-19) の患者の感染状況が重度であることを把握するための主要な指標の 1 つになりつつあったため、UC San Diego Health の臨床研究情報責任者である Dr. Mike Hogarth 氏は、アマゾン ウェブ サービス (AWS) に、医療従事者が診断と治療における情報の利用を可能にする臨床環境でモデルを適用するためのシステムのセットアップについてサポートを求めました。
患者のファイルと情報が医療現場で使用される場合、データのセキュリティは極めて重要です。人工知能モデルを適用するためのシステムは、UC San Diego Health が臨床環境で使用できるように、HIPAA に適合した厳格な規制を満たす必要があります。UC San Diego Health は過去に AWS で規制に準拠したソリューションを同様にセットアップしており、この経験によって、UC San Diego Health チームは AWS を使用してわずか 10 日間で目的のシステムを構築することができました。
UC San Diego School of Medicine の放射線科の准教授であり、UC San Diego Health の放射線科医である Albert Hsiao 氏 (MD、PhD) と同氏のチームは、放射線科医が AI を使用して胸部 X 線検査で肺炎をより正確に検出できるようにする機械学習アルゴリズムを開発しました。
モデルは、AWS で実行された初日に、障害がほとんどない状態で約 400 の X 線検査を処理することができました」
Dr.Mike Hogarth 氏
UC San Diego Health 臨床研究情報責任者
革新的な肺炎検出モデルの開発
UC San Diego Health は、世界の上位 15 校の研究大学の 1 つです。UC San Diego School of Medicine は毎年何百もの臨床試験を実施しており、UCSD Health Services Research Center は研究をサポートするための健康転帰データの収集と分析に専門性を有しています。2018 年、UC San Diego School of Medicine の放射線科の准教授である Dr. Albert Hsiao 氏が率いる UC San Diego Health のチームは、機械学習を使用して X 線検査画像で肺炎を検出する方法を開発しました。「私たちは、肺炎がどの程度確実または不確実であるかを示す色分けされた確率マップを作成しました」と Dr.Hsiao 氏のチームに所属する研修医の Dr.Brian Hurt 氏は述べています。Dr.Hsiao 氏によれば、「通常、人々は、肺炎であるかどうかを示す、単純な『yes』か『no』の出力を提供するモデルを作成します。しかし、私たちは、異常がどこにあるかを詳しく知るには、画像を作成することが重要だと感じたのです」 チームは 2020 年初頭にこれらの結果に関する論文を発表しました。
UC San Diego Health のチームは、AWS を利用して、研究データのために HIPAA に準拠した安全な環境を構築した経験を有していました。「UC San Diego Health における私の最初の仕事の 1 つは、保護対象健康情報がコンピューティング処理され、必要に応じて移動できる環境を構築することでした」と Dr.Hogarth 氏は述べています。「私たちのチームと AWS は、その環境を最適化することについて毎週ミーティングを行っていました。新型コロナウイルス (COVID-19) のパンデミックが深刻な状況をもたらしたとき、AWS はその環境がどのように役立つのか、そして私たちが実現したいことがあるかどうかを尋ねてくれました」 Dr.Hsiao 氏のチームのモデルがすぐに思い浮かびました。
目標は、臨床環境から X 線検査結果を取り込み、それに対してモデルを実行し、結果を迅速に返して診断を支援することができるシステムを実装することでした。「私たちのようなラボで作成されたモデルの多くは、有望である可能性はありますが、実際にそれらを臨床ワークフローに組み込まない限り有用となることはあまりありません」と Dr.Hsiao 氏は述べています。このような実装は、新型コロナウイルス (COVID-19) 患者の診断、治療、および転帰に影響を与える可能性があります。「新型コロナウイルス (COVID-19) による肺炎の所見は、他のウイルス性肺炎の所見と基本的に同じです」と Dr.Hsiao 氏は述べています。「Brian がトレーニングしたモデルは、一般的に肺炎を検出するための優れたモデルであるため、この集団でうまく機能します」 このモデルは 2 つの点で役立ちました。第 1 に、X 線検査画像で肺炎を検出した場合、以前の (おそらく偽の) 陰性の検査結果が発生した場合に検査または再検査を促します。第 2 に、既知の感染症の患者では、X 線検査で肺炎を検出することで、病気の重症度と予後を示し、情報に基づいた治療が可能となります。
AWS を使用した臨床環境でのモデルの実装
UC San Diego Health の研究チームは、画像を取り込んで色分けされたオーバーレイで返すようにモデルを既に設定していました。必要なのは、臨床画像システムに接続して画像を受信し、患者のファイルに直接出力できるクラウドソリューションだけでした。これにより、医療専門家が画像にアクセスして表示するのが便利になります。チームは既に AWS で HIPAA に準拠した環境を構築していたため、わずか 10 日間でプロジェクトを立ち上げて実行することができました。「モデルは、AWS で実行された初日に、障害がほとんどない状態で約 400 の X 線検査結果を処理することができました」と Dr.Hogarth 氏は述べています。実装後 6 か月間で、モデルは 65,000 を超える X 線検査結果をそれぞれ 3〜4 分で処理しました。
Point Of Care で医師に情報を提供するモデルの機能によって、モデルが非常に便利なものとなっており、AWS は、それを可能にするだけでなく、簡単で保守しやすいものにするために重要な役割を果たしてきました。Dr.Hogarth 氏によれば、UC San Diego Health には 500 名の情報技術チームがあり、1 人のメンバーによって、職務の一環として、AWS 環境における HIPAA や他の規制の継続的な遵守の検証が可能となっているということです。そして、臨床環境において、Dr.Hsiao 氏によって作成されたモデルを実装する場合に主に必要となるのが、Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) インスタンスです。この環境は、チームが必要とするセキュリティ設定を提供し、コンピューティング性能の増加に応じてサイズを簡単に変更できます。
Journal of the American College of Emergency Physicians Open によって発行された最近の論文によると、このモデルの実装は、臨床上の意思決定に 20% の確率で影響を与えています。「その程度まで臨床上の意思決定に実際に影響を与える例を、私たちは他にあまり知りません」と Dr.Hsiao 氏は述べています。モデルの初期精度は 86% でしたが、チームはまもなく、心臓の後ろにある見逃されがちな肺炎の症例を明らかにすることが可能な、さらに正確なバージョンをデプロイする予定です。
応用研究パイプラインのさらなる使用の評価
既存の Point Of Care ワークフロー内での機械学習ベースの臨床意思決定サポートの評価は重要ですが、あまり一般的ではありません。この画像分析ツールの評価はまだ始まったばかりですが、それがプラスの影響を及ぼしているという証拠となる事例があります。最近、78 歳の患者が発熱と腹痛で入院しました。医師は新型コロナウイルス (COVID-19) の診断を考えていませんでしたが、モデルは胸部 X 線検査で肺炎の兆候を示しました。そのため、医師が患者を検査したところ、ウイルスに対して陽性を示したのです。
Dr.Hsiao 氏のチームはモデルの継続と改良を計画していますが、Point Of Care で機械学習と人工知能のアルゴリズムを評価するというアイデアは、他のさまざまなヘルスケア研究にも応用できる可能性を秘めています。「私たちにとって、それはデータと意思決定サポートパイプラインです」と Dr.Hogarth 氏は述べています。「これらの画像でパイプラインの使用法を実証しましたが、他にも多くの応用が可能であることが考えられます」
患者の X 線検査の結果
新型コロナウイルス (COVID-19) による肺炎に罹患した患者の胸部 X 線検査の結果、元の X 線検査の結果 (左) と肺炎を検出する AI の結果 (右)。患者はペースメーカーを使用しており、心肥大の症状があります。これらの事実から、AI アルゴリズムは、患者に根本的な健康上の問題がある場合でも十分強力に機能するということが言えます。
UC San Diego Health について
UC San Diego Health は、University of California, San Diego (UCSD) の医療システムです。1960 年に設立され、世界の上位 15 校の研究大学の中に含まれる UCSD には、7 つのカレッジ、4 つの部門、および UC San Diego School of Medicine を含む 7 つの大学院と専門大学院があります。
AWS の利点
- 10 日間で臨床環境にそのイメージングモデルを実装
- HIPAA コンプライアンスを維持
- 画像を処理し、3〜4 分で患者ファイルに出力することが可能
- 20% の時間で臨床上の意思決定に影響を与えるソリューションを実装
- 将来の応用研究に適応できるスケーラブルなソリューションを作成
- 6 か月で 65,000 以上の画像を処理
使用されている AWS のサービス
Amazon EC2
Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) は、安全でサイズ変更可能なコンピューティング性能をクラウド内で提供するウェブサービスです。デベロッパーがウェブスケールのクラウドコンピューティングを簡単に利用できるように設計されています。